「アンキロサウルス」その威容はまさに戦車
白亜紀後期、この単語は教育番組や恐竜が登場するものでは非常によく用いられる。いわずと知れた恐竜たち最後の時代であり、恐竜の王者、ティラノサウルスが出現した時代である。
最も恐竜の多様化が進んだ時代でもあり、それまでの時代には見られなかった特徴的な見た目の恐竜が数多く出現した。
強固なボディーを持つ草食恐竜
その中の一つに見た目にしても化石にしても、文字通り「頑丈」の一言が動いていたかのような恐竜が存在した。その名はアンキロサウルス、白亜紀のアメリカに生息していた草食恐竜で、通称は鎧竜と呼ばれている。
その名の通り背中の全面や首に頑強かつ大きな骨の板(皮骨版)とこぶのようなスパイクが付いており、これで外敵の攻撃を防いでいたともされる、その装甲は頭だけでなく瞼にも及び、徹底して防御に特化した恐竜であり、ここまでわかりやすく「硬そう」という言葉が思い浮かぶ恐竜も珍しい。
この装甲はうろこと皮膚が変化したものなのだがその強度はティラノサウルスの近縁種の肉食恐竜の牙の一撃すら防ぎ、逆に牙をへし折られることもあった程の圧倒的な強度を誇った。全体が骨質化しているため化石としても非常に残りやすい。また尻尾の先には骨の塊が付いており尻尾も強靭な腱でがっちり補強されており、さらにしっぽの付け根は横に動かしやすい構造になっていた。
その形と機能はまさにハンマーそのもので、外敵への強力な武器であったことは想像に難くない。まさに攻守一体のスキのない恐竜だったといえる、だがあくまで鎧に守られていたのは背中だけであり、敵の攻撃であおむけにひっくり返されてしまうと抵抗できず簡単に倒されてしまったともいえる。
映画「ジュラシック・ワールド」
実際に映画「ジュラシック・ワールド」では奮戦するもののあおむけにされ首を噛み折られる描写がある。その装甲はなんでも防弾チョッキのような構造になっており、丈夫さと軽さを兼ねた構造であり、意外と機敏に動けたとされる。実際アフリカのある人食いワニの話では、人的被害が多すぎるので射殺しようとしたがうろこが大きく厚すぎるせいで拳銃やライフルの弾丸が通らず、仕留められないという信じがたい事態まで起こったらしい。
このアンキロサウルス、鎧竜の名の通り、近縁種のグループも同じように全身に鎧をまとったような恐竜たちが多く存在した。
しかし彼らの代名詞であるハンマーを持っていない種類も存在し、彼らの祖先にも装甲があまり発達していないミンミという原始的な鎧竜がいた。
他にもガストニアというハンマーを持たないまでも、全身に鋭いスパイクを持っていたものもおり、たとえ打撃を与えられずともスパイクで相手を刺し貫けた可能性は十分にある。むしろハンマーよりトゲで貫かれることのほうがいたい気がしてならない。
さてこのアンキロサウルス、他の記事で恐竜は怪獣のモデルになることが多いと書いた通り、とある怪獣のモデルにもなっているのである。
ゴジラと初対決?
その怪獣こそ、かのゴジラシリーズに登場するゴジラと日本で初めて対決した怪獣であり、のちにゴジラの相棒になった暴竜「アンギラス」である。
初登場したのはゴジラシリーズ第二作目「ゴジラの逆襲」である。この作品は日本初の怪獣同士の戦いが描かれた作品である。ゴジラと同じく水爆により現代に目覚めた恐竜の怪獣という設定なのだが、同族以外には徹底的な憎悪を抱き、脳が全身に分散しており俊敏に動ける獰猛な肉食恐竜という設定で見た目も本物のアンキロサウルスとは違い、背中には剣山のようなトゲしかなく、ハンマーもない(一応尻尾はトゲ付きでこん棒みたくなっている)、本物の要素ははっきりいって20パーセントぐらいしかない、ほぼ映画オリジナルの怪獣である。
劇中では初代ゴジラが死んだ後に現れた二代目ゴジラと映画冒頭から孤島で激戦を繰り広げ、海に転落、大阪に再びゴジラとともに現れ、町と大阪城を破壊しつくすほどの激戦を繰り広げた。
ちなみにこの劇中の映像は本来はスロー再生で重厚な雰囲気で流すつもりだったのだが、スタッフのミスで早送りになってしまったが、逆にこの早送りが野性味あふれる動物同士のリアルな戦いだとして、思いがけない高評価となりそのまま採用されたのである。実際劇中の戦いは異様に早く、リアリティがあり、互いが互いののどを狙って噛みつきあう、野性味あふれる、ある意味で本物らしさが見て取れる。
その後アンギラスは5作品の映画に出演し、「ゴジラ対ガイガン」でゴジラとともに敵と戦い、大立ち回りを演じた。しかしその後「ゴジラ対メカゴジラ」を最後に「ゴジラFINAL WARS」まで実に30年間も登場しなかったが、それまでのシリーズでは幾度となく、登場させようとしていたができなかった理由に、大まかにいえば見栄えがない、地味といったかなりきつい理由があり、せっかく日本初の怪獣同士の対決という快挙の立役者になったのに少々不憫である。
装甲恐竜アンキロサウルス、その見た目のフォルムから見ても怪獣になっても人の目を引く、かなりお堅い恐竜である。