その発見はまさに奇跡、貴重すぎる幼体の化石
恐竜の化石というのは普通は大人の化石が見つかるもので、幼体(子供)の化石が見つかるといったケースはごく稀である。その理由は子供の化石は小さく成体(大人)に比べると強度にも劣るため、壊れたり、化石になる過程で風雨にさらされると、成体に比べ化石が分散してしまうことも多いからである。
しかし2016年上野で開かれた恐竜博で、ある貴重な化石が展示されており、しかもその化石は下手な化石以上に完璧に形がほぼ残っており、まさに奇跡的としか言いようのないものだった。
幼体の化石
何の化石なのかというとトリケラトプスと同じく、ツノを持つ恐竜、角竜類の近縁種「カスモサウルス」の幼体の化石。
そしてカスモサウルスほどではないものの、原形をかなりとどめた、鳥脚類の草食恐竜「パラサウロロフス」の幼体の化石だったのである。恐竜の化石の発掘は見つかってもそれは体の一部であることがほとんどで、全身丸まるの骨格が見つかることはほぼないといっても過言ではない。
だが過去にはメスのティラノサウルスの化石、通称「スー」が発見されたが、この化石は体の約80%を残して化石化していたのである。ティラノの化石の中ではかなり有名でこれの発見でまた研究が進んだが、こういった事例は非常にまれであり、運がよかったとしか言いようがない。
貴重な化石
この2種の幼体化石は学術的観点からしても貴重すぎるほどのもので、ほぼ成体の化石しか見つからない恐竜の中でもこれほどきれいに原形をとどめたままの化石ははっきり言って見たことがなかった。
このほぼ完全な化石により多くの新事実が判明した。
カスモサウルスの幼体
まずカスモサウルスはやはり子供ゆえかツノは未発達で、小さなこぶほどの大きさしかなく、フリルも小さかった。尻尾は先端部分まできれいに連結したままで、関節が多く可動域が広いゆえ外れてバラバラになりやすい尻尾がここまで残るのは学者からしても奇跡といっても過言ではない保存状態とのこと。
やはりツノはサイのように成長過程で少しづつ伸びていくものだというものなのだと証明された。フリルも成長の中でどんどん大きくなっていき更には重くなる頭部を支える首の骨も一部が癒合してより強靭な構造になっていくのである。
年齢は一歳ぐらいかそれ以下で本当に生まれて時間がたたない間に死んでしまい化石化したのだろう。
パラサウロロフスの幼体
もう一つのパラサウロロフスの幼体の化石も、生物が成長過程で一部の器官が発達していくといういい典型例の証拠となった。
この草食恐竜は頭部に大きな管状の棒のようなトサカが付いているのだがこれが幼体の時は前述のトリケラトプスのように、こぶくらいの大きさしかないのである。
用途としてはこのトサカは内部が空洞で自分の声を増幅して、大きな声を発することができたと考えられ、群れの仲間とのコミュニケーション、警報といった役割がこのトサカによりできたと考えられている。
この化石自体はトリケラトプスに比べ、少々関節の結合がずれていたりして、頭骨は完全に胴体から外れてしまっているが頭部はほぼ原形をとどめている。
この頭部から分かったことだが、この段階でも幼体はむしろ構造上大人以上に高い声を出せたとされ、大人の目が届かない部分でも鳴き声で場所を把握できたと考えられる。
このように幼体の化石の発見は本当にまれであり運がよかったという言葉以外思い浮かばない。
恐竜はもはや絶滅してしまった生物であり、もはやその証拠は化石に頼るしかない。しかしその化石すらも数がなければ明確な研究の材料にもならない、なんといっても恐竜の研究には運と時間がかかるということだろう。