カモノハシ「奇妙」という言葉が具現化した個体
世間では奇妙な生き物をよく見かける。しかしその姿は進化の過程で選択された結果獲得された姿なのである。元をたどるとどんな動物も一概に似通った姿をしていたのだが進化し続ける中で現在の姿に落ち着いたのである。
世界唯一の単孔類
そんな哺乳類の中でも、「奇妙」という言葉がそのまま具現化されたような生物が存在する。その生物は約1万5000年前からいたが姿が変わらない「生きた化石」に分類され大陸分裂の早い段階で、それぞれの大陸から孤立し、独自の繁栄をたどった珍獣の宝庫、オーストラリアの東部に生息する「ハリモグラ」と並ぶ世界唯一の単孔類「カモノハシ」である。
昔は現在以上に大きく亀やハイギョを餌にしており、鋭い歯もあったとされる。単孔類というのは尿道、肛門、生殖器、すべてがおなじ一つの穴にあるのが特徴である。一説にはカモノハシは中生代にはすでに出現していたともされている。
もっとも古い歴史を持つ
彼らの起源はなんと恐竜が繁栄していた2億年前もしくは1億5000万年前にまで遡るとされ、そこら分岐した動物の末裔とされるが、化石が少ししか見つかっていないので確証は今も得られていない。こういった説から最も古い歴史を持つ哺乳類とされる。
オーストラリア東部の水辺に生息し、エサは主に小魚、貝、ザリガニ、エビなどである。同国の生物の中で、特異な生態、見た目、生まれ方など、あらゆる点において他に例えようのない生物こそがこのカモノハシなのである。
カモノハシの生態
その見た目はまるで複数の動物を切り張りしたかのような姿で、ビーバーの体にカモのくちばし、大きく幅広な尻尾、四肢には水かきが付いてたりと奇怪すぎる姿をしている。
カモノハシは1798年に発見され、その毛皮やスケッチ、剥製がイギリスのグレートブリテン王国に送られたが、本物だと思われず、いろんな生き物のはく製をばらしてくっつけたとまで言われたほど。
これを調べ、初めて記載を行った学者のジョージ・ショーも「本物だと疑わずにいられない」という言葉を残したほど本来の姿と思えずビーバーみたいな生物にカモのくちばしを縫い付けたと思いハサミで毛皮を切った程だった。
つまり初めて見た人はだれもがその姿が本来のカモノハシのものだと思えなかったのである。異名で「創造論者の悪夢」(クリエイショニスツ・ナイトメア)と気取りすぎで、カッコつけすぎな名前が付けられるほど。
しかも見た目のみならず、遺伝子を解析したところ、哺乳類、鳥類、爬虫類の遺伝子が寄せ集めて作ったようなほかにはまるで見られない構造をしていたのである。
ある学者は「最も進化が少ない動物を挙げるならカモノハシとオポッサムぐらいだ」と、その進化が進んでいないことを明言した。なんでもオーストラリアには水中で生活する生物が少なく、カモノハシは生存競争にさらされることがなかったため、進化しなくても問題なかったとされる。
前述の見た目もさることながら、カモノハシは特徴だらけの生物であり枚挙にいとまがない。水辺に生息するため毛皮は分厚く防水性能が高い、過去には高値で売れるのでハンターたちに乱獲もされた。
最たる特徴たるそのくちばしは鳥のものとは違いゴムのような質感でこれにはなんと獲物の発するわずかな電気、生体電流を感知する高度なセンサーが備わっている。
これらの特徴は一部の魚類やサメにしか持っていない特徴なのである。これによりカモノハシは暗い水中でも獲物を見つけられるのである。というか彼らは水生生物なのになんと水に入る際は目を完全に閉じてしまうのである。もはや視界が効かないなどの話ではなく、元も子もない話である。
激しい痛みを伴う毒を持つ
骨格はどっちかというと爬虫類寄りになっていること。オスもメスも鋭い蹴爪を持つがオスに限り、後ろ足に毒腺を持ち、犬ぐらいの大きさの動物なら死に至らしめるほどの毒性を誇るが、人間が刺されても死ぬことこそないが数日間もしくは数か月は患部が腫れあがり、モルヒネを使っても止まないほどの痛みに苛まれる。
そしてカモノハシはなんと哺乳類にもかかわらず、卵を産んで繁殖するのである、約二個ほど産卵し、大きさは100円硬貨よりも小さい。卵は約10日ほどで孵化するが、子供は2センチ程度と超未熟児というべき程の状態で生まれてくる。
食事は母親の母乳なのだが、カモノハシは乳首を持たないので乳腺から直接染み出した母乳を子供は舐めるようにして飲むのである。初期の哺乳類も卵を産んで繁殖したとされ、原始的特徴の最たる例といえよう。ちなみにカモノハシが卵を産むと提唱した学者はさんざん馬鹿にされたらしい。
その奇怪すぎる見た目と性質、生態、繁殖方法、歴史、どれをとっても奇妙すぎるいわばパンダ以上の珍獣の代表格、それこそがこのカモノハシである。