エルピストステゲ、進化途中の指を持つ古代魚
古生物の新発見が後を絶たないどころか、学説を急伸させるような大発見が相次ぎすぎている。
どれも調べれば、生命史をいくらでも更新させるほどの発見ばかり、今回は生命が陸に上がった証拠を示す新顔の生物を書き上げていく。
「指」を持った魚類
今回の主人公は「エルピストステゲ・ワトソニ」。
約3億9300万年~3億5900万年前のデボン紀中期から後期のカナダの地層から、完全な化石が発掘された「足を持ち始めた魚類」である。
1938年に最初の化石が見つかったが、化石は頭骨のほんの一部分の化石しかなく、全容の解明にはほど遠く、推測でも両生類の一種としか思われておらず、新たな化石の発見が姿の解明に役立った。化石は全身が揃った、ほぼ完ぺきな姿のもので、そこから推測された全長は1m57㎝。
魚と両生類の両方の特徴を併せ持ち、まさに両者の中間型ともいうべき姿かたちをしていた。
魚類に分類される、古代の「魚」だったのだが、解析をした結果、手足に「指」の痕跡が認められた、「魚類」から「両生類」へ正に進化の途中たる生物だという。
原始的だが明らかな「手」
昔から「魚」が陸に上がり、そこから「両生類」が誕生したといわれてきたが、エルピストステゲはそれを証明したというべき大発見だったのだ。
CTスキャンでエルピストステゲの胸鰭の先端を調べると、先端骨格が細かく指の様に分かれていた。
まだ原始的といえど上腕骨や、尺骨、手根骨など、ほぼ「手」の構造たる骨が見られ、「橈骨」という小さな骨もあり、一連の列をなしていたこの橈骨は、四足動物の指と基本的に全く同じものだという。
これはまだ鰭条がある魚類のヒレの内部で見つかった、指骨の存在を示す最初の証拠という、一大案件だった。
だが、骨の構造こそ「指」だが骨格はヒレの中に埋まっており、人間の指の様に物を掴んだりなど、自由に動かせることはほぼできなかったという。
あくまでエルピストステゲは魚なので、陸を這いずり回る等の移動能力はほぼ持っておらず、生活はほとんどの時間を水中ですごしていた可能性が高い。浅瀬や岸などの、深さのない水辺で暮らしながら指のある胸鰭を「前足」のように使い、水中から陸に上がるのに便利だったのかもしれない。
細かい指がある方が、ヒレに柔軟性を与え、体重を支えやすく有利だったとされる。顎には細かく鋭い歯がいくつも並び、体の大きさも考えて、生存当時としては最大級の捕食者だった可能性が高いという。
陸への進出の始まりの生物
エルピストステゲの発見により、人間を含めた脊椎動物の「指」は、まず最初にエルピストステゲ類のヒレの中の、指骨の列として進化したことを示唆しているという。
少なくとも水を離れる前に、脊椎動物の指のパターンが開発されたことが示唆されている。
ヒレを使う機会が増えていき、やがてヒレではなく指が目立ち始め、手が地面を掴みやすいように大きく発達していったという。
エルピストステゲは魚と陸上の脊椎動物の境界をあいまいにする発見で、魚類と四肢動物の間を埋める生物の、真の中間体たる「遷移化石」であると主張している。
この発見により生物の陸への進出が明確に示された形になり、正に「進化の途中」の化石であり、また生物史に書き込む事例が増えそうな案件であることは間違いないようである。