フタバスズキリュウは日本初発見の首長竜だった
恐竜が日本で認知される以前から、唯一無二の知名度を誇っていた、とある海の爬虫類がいた。
60年代末期に発見され、それ以降の日本で無二の有名さを誇り、恐竜ブームの先駆者ともなった爬虫類だった。
日本初発見の首長竜
今回の主役は〖フタバスズキリュウ〗。しかしこれは『和名』。
正式名は『フタバサウルス・スズキィ』。名前は発見者の鈴木氏と発掘地の地層名からとられた。
過去には調査のため来日した『サミュエル・ウェルズ』にちなみ「ウェルジオサウルス・スズキィ」と学名が提案されたが、新種化既存種かの判別が付かず正式な論文もなく、見送られた。
発見当初は新種か既存の種か判別が付かず、命名規約の問題もあり発見されてから38年後の2006年に、頭骨の目と鼻の間の距離・手足の各骨格の長さの違いなどの判別が付き、論文が出版され新種としてラテン語された学名が決定された。
約8500万年前の白亜紀後期の日本近海に生息していた。日本国内で初めて化石が発見された首長竜の化石として、非常に有名。しかし厳密には恐竜ではない。ほぼ同じような扱いをされているが。
西暦1968年(昭和43年)に福島県いわき市大久町入間沢の大久川川岸にある、双葉層群玉山層入間沢部層にて化石が発見された。発見者は、当時高校生だった「鈴木直」氏だった。
発見された化石は、頭部、首から腰までの一続きになった長い首と背骨の骨、胸骨の一部・骨盤・四肢の骨(ヒレ)の化石で、非常に保存状態がよいものだった。
化石は『国立科学博物館』の発掘チームが2年がかりで発掘され、復元作業には5年の月日が費やされた。
体長約7m、体重は3~6tと、首部分が失われているため全体像は推測の域を出ないが、首以外の肉体部分は約70%も発見されている。
『首長』の通り首が非常に長く全長の半分を占めるほどだった、胴体は短くタルの様で四肢は効率よく遊泳できるが、高速で泳げるような仕組みではなかった。
発見された60年代の日本ではアメリカなどの大陸と違い、恐竜などの中生代の生物の化石が発見されることはないと考えられていた。だが、フタバスズキリュウの発見により定説が覆り、以降の日本で古生物の発掘が盛んになった。
現代の日本における恐竜への高い注目度も、本種から始まったといってもいいほどの大発見だった。
しかし、発見当初は日本では研究環境が整っておらず、研究が遅々として進まず、その全容の解明に36年もかかってしまったのである。
全身骨格復元標本は前述の『国立科学博物館』で展示されている。
化石は古代の日本の海を物語る
海洋では典型的な海洋生物としての暮らしをしていたという。
首はフィクションでよく描かれるような、ヘビのような「とぐろ」を巻けるような柔軟性には乏しく、首の先端部(頭部付近)は可動性は高かった可能性はあるが、首の付け根部分はほとんど可動性はなかったとされる。
牙は円錐型で後方にカーブし、滑りにくく抜けにくい典型的な魚食性動物の特徴を示していた。牙は上下の歯が交互に並び、この歯の並びは魚を丸呑みしやすい構造だった。
海洋生物だったが身体の形状はスピードを出すのには不向きで、動きの速い回遊魚ではなく海底の古代のイカ類やタコ類、アンモナイト類が主食だったとされる。発掘地の地層からはアンモナイト化石も多数出土している。
頭はバスケットボール位と意外と小さく、大きな獲物を口にできず喉も細かったため、小魚を捕らえて噛まずに丸呑みしていた可能性が高い。
現代のアザラシやアシカと違い陸上には上がることはなかったとされる、背と胸を構成する骨が離れており、その間に骨がなく肺を骨格的に支えられなかった。
水中では問題ないが、陸上では肺が押しつぶされてしまい呼吸ができない体だった。陸に上がりたくてもほぼ上がれなかったとされる。
化石では胎児と思われる化石が体内に入ったままの化石も発見されており、このことからメスは産卵の際は、ウミガメの様に一旦陸に上がり卵を陸に産んだのではなく、卵をおなかの中で孵化させてから幼体にまで少しばかり育てて出産したとされる。
この様な繁殖の形態を卵胎生(卵を胎内で孵化させ胎児にして子供を産む方法)という。発掘された化石の周囲からは80個にも及ぶ大量のサメの歯も見つかり、ヒレには歯が刺さった化石も見つかっている。
このことから生前にサメ類に襲撃され捕食されたのかとも議論されている。しかし、これはこの個体が死んだ後にサメが群がり、死骸を食べただけともされている。
どっちにしろ、古代の日本の海洋には想像以上の多様な食物連鎖が存在し、考えている以上の生命の宝庫だったというわけなのは間違いのない事実であろう。
ドラえもんで一気に有名に
フタバスズキリュウは『ドラえもん・のび太の恐竜』に登場し、映画公開後の日本社会で一度は名前を聞いたことがあるといわれるほどに有名となった。
劇中では「ピー助」と名付けられ、原作と映画は恐竜が多くエピソードでも取り上げられるドラえもんでも名作として人気が高い。
今後の映画でも登場するみたいな噂が立っており、その人気を不動のものにし、日本古生物研究の幕開けとなった生物の存在は計り知れないほど大きいのである。