ツァボの人食いライオン②「悪夢の襲撃、最初の対決」
引き続き、ツァボの人食いライオンについての記事を書き留めていく。
ライオンの存在を確認し、討伐に打って出た現場総監督のパターソン。
しかし、ライオンは彼の思考を読むかの如く人を食っていった。
忍び寄る危機
ライオンを仕留めようと決心したパターソンだったが、労働者のキャンプ地の範囲が広く、追跡も予測も困難を極めた。
そしてついにパターソンにも危機が忍び寄っていたのだ。
彼のテントも開拓地で遮るものもなく、労働者と同じく危険だった。
休息のため休んでいた、ある日の真夜中に何かがテントの張り網に躓く音で彼は目を覚ました。
テントには医務官のローズ博士も泊まっていた。
警戒し、明かりを持って外に出るとなんの影もなく、テントに戻り再び寝静まった。だが朝になり再び確認を取ると、テントの周囲にはライオンの足跡がはっきりと残っていたのである。
パターソンは身の危険を感じ、住居を移さざるを得なかった。
自分が前もって建てておいた別の小屋に、住居を移動させると、その地域の医療担当になったブロック博士と共に小屋に住むことにした。
対策として、イバラで作った「ボマ」という簡易的な垣根で周囲を囲い、ライオンの侵入を防ぐこととした。
パターソンの使用人も囲いの中に住み、火を一晩中焚き続け、警戒を怠らない。
労働者のキャンプにも同じようにボマを張り巡らせたが、これもライオンには意味をなさなかった。ライオンはボマの弱い部分や薄い部分を、破るなり飛び越えるなどして侵入し、犠牲者を出し続けた。
2日から3日のペースで犠牲者が出続けたが、最初は労働者も危機感を感じていなかった。労働者の数が2000人から3000人にも及ぶため、自身が狙われる確率は低いと楽観視していたのである。
広範囲にキャンプが点在していたことも、それに拍車をかけてしまったのだ。
病院キャンプの惨劇
一応、工事自体は順調に進み、キャンプも前進していったが、事態は悪化の一途を辿っていた。パターソンは工事の仕上げに掛かり、300人程度の労働者たちが残留することとなった。
だが、人数が減ったことでキャンプが一か所に纏まることになり、ライオンがここを集中的に狙うようになった。人が狙われる確率も高くなってしまい、多くの労働者が恐慌状態になってしまったのだ。
この事態にパターソンも残留し、一時工事を止め、特別に頑丈なボマを作りキャンプ周辺を囲うという許可もだし、苦慮しながらも労働者を同意させた。
安全のため寝ずの番や、焚火を焚き続ける、手近な木にロープで吊るした石油缶を鳴らすように細工を作りライオンを追い払おうとした。
だがライオンはそれらも意に介さず、労働者を食い殺し続けた。
労働者キャンプが移動した後も、病院キャンプは元の場所に留まり続けていた。キャンプはパターソンの小屋から1キロ程の距離にあったが、ここにもボマが厚く張られ見た目は安全なようだった。
だが、人食いライオンはここにも姿を見せるのである。
ライオンはボマの弱い部分から侵入すると患者に襲い掛かり、8人の内1人が連れ去られて犠牲になり、二人が重傷を負わされる惨事が起きてしまった。
翌朝パターソンらが駆け付け事態を把握し、病院キャンプはすぐさま別の場所に移転となった。ライオンは人気のないキャンプを襲うのでパターソンは1人、人のいないボマの中にテントを張り、自らをおとりにする形でライオンをおびき出して仕留めようとした。
だが、ライオンはなんと新たに作った人の多い病院キャンプを襲ったのである。
夜明けになり現場に向かうと、労働者の一人がさらわれたという。
痕跡をたどり追跡すると、400m程離れた場所にライオンにさらわれた労働者の遺体があった。病院キャンプは再び場所を移された。
ライオンとの最初の対峙
パターソンは対策を考えた結果、病院キャンプ付近の跡地に有蓋貨車を1両置いて、そこに隠れてライオンを待ち伏せする作戦を考え、テントをボマの中に残して、家畜も数匹おとりにした。
夕食の後、パターソンとブロックは貨車に赴き、ライオンを待った。2時間ほどは静かだったが、突然枯れ枝が折れるような音がし、生き物の気配がした。パターソンはライオンが来たと感じ、貨車から出ようとしたが、ブロックが危険と思い止めた。
貨車に留まると、数秒後、なんとライオン1頭がすぐ目の前で隠れていることに気づいたのだ。
ライオンは貨車に近づくが、明かりもないため銃の狙いが定まらなかった。
そして一瞬の後、ライオンが遂にとびかかってきた。反射的にパターソンは銃を発射し、瞬間、ライオンは即座に身を翻し逃走していった。
銃弾は外れたようだったが、パターソンの放った銃弾は後の調べで、ライオンの牙を一本へし折っていたという。
後のパターソンの証言で、「あと1秒遅かったら貨車に入っていた」という。
仕留められなかったが、一矢報いることには成功した。
ここから人食いライオンとパターソンの激突は本格化していくのである。