ツァボの人喰いライオン③「悪魔の凶行、死神の晩餐」
未曾有の人食い事件の顛末を書いていく。
ライオンに一矢報いたパターソン、だが悪魔は凶行を加速させていく。
人を欺く死神
人喰いライオンに遂に一矢報いた総監督のパターソン。
それ以降、警戒したのかライオンは長い間姿を見せなくなっていた。
再びライオンが現れるまで、工事は続けられたが、パターソンはこの間反発心を持った労働者に命を狙われたりもしたが、どうにか最悪の事態は回避した。
ライオンとの戦いがメインなので、労働者たちの陰謀の話については割愛する。
ライオンが姿を見せない間も、パターソンは楽観視せず対策を考えていた。そこでパターソンは、「人」を囮にした罠を仕掛けて、ライオンを捕まえることを思いついた。
しかし、単純に人間を餌にするような非道な手段ではなく、危険な目に遭わせないように最大の対策を強いた。
材料には木材やトロッコのレール、電線や鎖などといったパターソンの考え付く限りの頑丈な素材で、簡易的な大型のネズミ捕りのようなトラップを作り上げた。
トラップの構造は囮役の人の入る部屋と、ターゲットのライオンを閉じ込めるための部屋が、レールと木材を使って作られた仕切りで分かれていた。
ライオンが罠に入ると、入り口が閉まり抜けられなくなる仕組みであった。さらにライオンの欺くために周囲を特別に頑丈なボマで囲み、万全に整えた。
最初の三日間はパターソン自身が囮となったが、ライオンは姿を見せなかった。
恐怖を忘れた悪魔
それ以降もほかのキャンプは時々だが襲撃を受けていたと、パターソンは把握していた。しかし、ツァボ付近ではライオンが本当に現れなくなったため、労働者たちは安心しきっていた。
だが、油断に付け込むかの如く再び人喰いライオンが姿を見せた。再び襲撃されたのは、安心した労働者が涼を得るために大勢が外で寝ていた深夜だった。
ライオンがボマに潜り込み、キャンプに入ると労働者の一人に襲い掛かった。
襲われた際の叫び声で、皆は目を覚ましたが、時すでに遅く労働者は殺された。
人が多かったために労働者たちは石やこん棒で応戦したが、ライオンは全く気にも留めず、外で待機していたもう一頭と合流すると、30mしか離れていない場所で、大胆にも労働者を食べ始めた。
その際にも銃を放つなどして威嚇したが、人の無力さを学習したライオン2頭は一切気に留めず、「食事」を終えるまでその場を離れなかった。この事件後もパターソンは一週間の間ライオンを待ち伏せたが、全て徒労に終わってしまった。
パターソン自身も裏をかき続け人を襲い続けるライオンに対し、悪魔とも不死身かもしれないとさえ思うようになり、無力感に苛まれ、切羽詰まっていった。
そしてライオンも完全に人間の無力さを覚えたらしく、一日に一人ずつ労働者を襲うようになってしまい、朝には人が一人いなくなっているというのが常態化してしまった。
毎晩の見張りも意味をなさず、犠牲者は日を追うごとにどんどん増えていった。パターソンをあざ笑う様に、彼のテントの近くまで殺した労働者を運んできて、その場で「食事」を行ったという。
パターソンは人肉を咀嚼する音や骨を噛む音までも耳にしたという。
人食いの恐怖は人心を狂わせる
パターソンのいたキャンプの近くの労働者も恐怖にかられ、彼のボマの中に入れてほしいと懇願した。
パターソンは彼らを受け入れたが、彼らが病人の仲間を見捨てたと知ると、数名を引き連れすぐに向かったが、その病人は見捨てられたショックで、到着した時には死んでいた。
ライオンはこれまで一頭が外で待機し、もう一頭が人を襲っていたが、2頭で人を襲う様になってしまった。
11月の最終週にはスワヒリ人の労働者2名が襲われ、一人が連れ去られたが、もう一人はボマに引っ掛かりどうにか助かった。だが重傷を負い、病院に着く前に絶命してしまった。
その2日か3日後にはツァボ駅から近い位置にあった、最大級のキャンプが襲撃された。ライオンはキャンプに押しいると、労働者をさらい、キャンプのすぐそばで「食事」を始めた。そこの監督官が遠くから50発以上も銃を撃ったが、ライオンには意味をなさなかった。
翌朝騒ぎを聞きつけたパターソンは、ライオンが負傷したと思い追跡を開始した。痕跡が残っており、それを辿っていき、ライオンを見つけたと思ったが、そこにはさらわれた労働者の遺体があるだけだった。
連続の襲撃に労働者は完全な恐慌状態に陥り、ついに労働者たちは作業を放棄してしまった。彼らは通りがかった汽車に乗り込み、多数の人間がツァボから逃げてしまった。ライオンのエサになるわけにもいかず、パターソンも彼らを止められなかった。
ある程度の人間は残ったが、とても人手が足らず工事は完全にストップ、残された人もライオンの襲撃に怯えきってしまった。
一矢報いたが、ライオンをいまだに倒せずにいる。だが後にライオンは人間を警戒しなくなったことが命取りとなる。まだ話は続くが、今回はここまで。
これからライオンとの戦いが佳境を迎える展開となっていく。