集団で襲い来るのはまさに悪夢、マプサウルス
過去記事で書いたアロサウルス類、もっと厳密にいえばアロサウルスに近縁の、史上最大級の肉食竜が多く所属する、巨大肉食恐竜グループで、カルカロドントサウルス類の絶滅要因、白亜紀になるころにジュラ紀の王者であった。
アロサウルス一族はことごとく姿を消し、その後釜にティラノサウルス、アベリサウルス類が出現し、存続は絶たれてしまった。だがなぜアロサウルス類が絶滅に至ったのか、その原因は長い間、謎に包まれていた。しかし近年最新の研究により、彼らの絶滅原因の一端が明らかになってきた。
マプサウルスの発見
その原因の解明に一役買ってくれたのが、今回の主人公の新種肉食恐竜「マプサウルス」の発見であった。名前の意味は「大地のトカゲ」、2000年に発見された。史上最大の恐竜と称される、大型竜脚類アルゼンチノサウルスと同時代たる、9000万年前の白亜紀前期に同じ地域たるアルゼンチンに生息し、彼らの天敵とされた恐るべき肉食恐竜で、体格はティラノサウルス以上であった。
体長は13メートル、体重4トンにもなったらしく、最大級の肉食竜の一角を占めていた。ギガノトサウルスやカルカロドントサウルスと近縁種であり、南アメリカ大陸のアロサウルス類の大繁栄とその生態系上の頂点に君臨していたことを代表するのが彼ら、マプサウルスである。
彼らは発掘された地層で亜成体を含めた、なんと7頭にも及ぶ成長過程にそれぞれ違いがみられる、世界的に見ても稀な複数体の集団化石が発見されたのだ。これは肉食竜が明確に群れをつくって行動していたと証明するに一役買った貴重な事例である。さらにこの地層の周辺からほかの恐竜の化石が見つかっていないため、群れだということにも信憑性がある。
大型獣脚類は単独で発見されることがほとんどで、このような事例は珍しい。幼体もいたことからこれらが獲物を捕らえるための一時的な集団ではなく、社会的な生活を送る群れだとする可能性は高い。
肉食竜の特徴
最大級の肉食竜の一種であるため、体長はティラノ以上、頭骨もティラノ以上に大きかったが、穴が大きく、大きさの割に軽量で華奢な作りでった。こういった大きいが軽い作りの頭骨というのは、ギガノトサウルスの仲間にあたる肉食竜に共通する特徴である。
歯は薄く、のこぎりの様に鋸歯が付いており、ナイフ状になっていた。頭骨と歯の形状を踏まえると、強靭な咬合力で骨をかみ砕くのではなく、鋭い刃物状の歯で獲物に裂傷を負わせ、出血多量による失血死を狙いやすい構造であった。
この歯と巨体で、アルゼンチノサウルスを襲ったと考えられるが、いくら彼らが巨体といっても、アルゼンチノサウルスに比べると劣ることは否定できず、確実に仕留めに行くのではなく、スキをついて獲物の体に噛みつき、表層部の肉をかじり取るようにして、たとえ獲物を確実に仕留めずとも食料を確保したと考えられ、そうやってじわじわと傷を負わせ、弱らせて捕食したとも考えられる。
もちろん幼体や老化した個体も積極的に狙っていたことはまず間違いない。前述の複数体の化石から推測して、ライオンのように複数でかかればアルゼンチノサウルスにも十分対抗できたとされる。また化石から推測して、彼らは幼体のころはまだ身軽で、軽快に行動できたが、成体になると巨体の分、動きが制限されてしまったと思われる。
実際彼らの後ろ足の大腿骨は超重量の体格を支えるために長く頑強だった。中足骨も丈夫で、このことからマプサウルスの足が幅広で、頑強、強靭な筋肉で4トンにも及ぶ体重を支えるにふさわしい構造だったことがわかる。
絶滅の原因
本題である彼らアロサウルス類が絶滅した原因、それは獲物にしていた大型竜脚類の絶滅だとされている、簡単にいえば運命を共にしたのである。世界を見ても大型竜脚類の生息域には決まって、ティラノサウルスと同等か、それ以上の巨体を誇り、天敵の立場に収まっていた肉食竜が同時期に存在しておりもちろん生息域も重なっていたのである。
カルカロドントサウルスとギガノトサウルス、アクロカントサウルスもこの共通点において例外ではなかった。つまり彼らは巨大竜専門ハンターであり、常食とみなしていた獲物につられるように、それらに対抗できるように巨大化していったということである。
それゆえ獲物も限定的であったため、彼らが絶滅すれば獲物が足りなくなり、後を追うようにその姿を消していったのである。
実際、アクロカントサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルス、アロサウルス、マプサウルスたちは獲物にしていた大型竜脚類の絶滅後に絶滅するという共通点があった。マプサウルスもアルゼンチノサウルスが9300万年前に絶滅すると、すぐに絶滅した。
巨大であり恐ろしくもはかない運命をたどることになった巨大肉食竜、彼らもまた恐竜の中で奇妙な末路をたどったと言えよう。