メガネウラ巨大トンボ怪獣
古い歴史を持つ昆虫
田舎の夏の風景や秋になると、ある昆虫たちがよく見かけられるのではないだろうか。今回の主人公の昆虫は人にとってもとても身近だが、非常に古い歴史を持つ生きた化石なのである。
今回の主人公たる生物は「トンボ」である。昆虫の歴史は古く、太古の昔から続いているものが多いが、トンボ類はその中でもかなり有名な種類である。
過去の記事でも書いた、石炭紀にはすでにトンボが出現していた。
その巨大トンボの名は「メガネウラ」
翼開長70センチにも達する、地球の歴史上最大の飛行昆虫とされる、最古のトンボである。
幼体のヤゴの時点ですら体長30センチはあったとされる。1880年フランス中部で見つかり、イギリスをはじめとした、ヨーロッパ各地で発見されている。巨大なものもいたが、現在とたいして変わらない大きさのものもいた。
トンボ類は幼虫のヤゴとしての側面もよく知られている。ヤゴは現在に至るまでほぼその姿が変わっていない、同じく太古の昔より姿が変化していない、サメ類やワニ類と同じ生きた化石に属する種なのである。
メガネウラは石炭紀の高濃度の酸素のおかげで、他の昆虫たちと同じく巨大化し、その当時の空の生態系の支配者たる存在になっていた。
昆虫の大きさは呼吸器官である、気門と気管に左右され、高濃度の酸素で大きな呼吸器官でも問題がなく、大きくなれたとされる。成体の時点でこれほど巨大なのだから、幼虫のヤゴの時期でも前述の通りかなりの体格を誇ったと思われる。
エラがあっても泳げないヤゴ
ヤゴは昆虫の中で唯一エラを持ち、水中生活に完全に適応しており、エサは小魚やオタマジャクシである。
水に完全に適応しているにもかかわらず、ヤゴは基本、水底を歩いて移動し、泳げないのである。その代わり体に水を取り込み、尻の先から水を勢いよく噴出し、ジェット噴射の要領で素早く移動できるのである。
狩りの仕方も独特で、彼らの顎はなんと伸縮自在であり、カメレオンの舌のように飛び出し、獲物に噛みつけるのである。
場合によっては共食いもじさない。このことから最も獰猛な昆虫とも呼ばれている。
成体も飛行性昆虫の中では結構強い部類に入る、最大種「オニヤンマ」は場合によってはスズメバチすら捕まえられるほどである。メガネウラも初期の爬虫類やほかの昆虫類を捕食していたと考えられる。ヤゴも水棲両生類、小型魚類などを数多く捕食できたとも考えられている。
また、その目は「複眼」と呼ばれる、小さな目の集合体によってできたものであり、視界は270°もある高速で飛び回る、トンボの最大の武器でもある。
トンボに限った話ではなく、昆虫の多くがこの目の構造を持ち、特に飛行性の昆虫の複眼の数は高速飛行に適応して、非常に多い。
ハエで約8000個、しかしトンボの複眼の数は20000個を超えるとされる。複眼はその目で見た対象物の別部分を見ることができ、この複眼で獲物の動きを事細かにとらえ、瞬時に対応ができる。4枚の羽を巧みに使い、ホバリングもできる。
しかしメガネウラは飛べこそすれど、ホバリングはできなかったとされ、翅を閉じてとまることもできなかったとされる。しかし対空は少しはできたようだ。
絶滅からの生き残り
彼らが絶滅した理由も、環境変化による部分が大きい。石炭紀末期の酸素濃度低下に伴い、適応できなかったこと、生息域に水が流入したことで生息域が奪われたことが大きな原因であろう。
しかし彼らはペルム紀の初期まで少しは生きていたとされる。その時代以降に化石は発見されなかったが、2009年の最新の発見によると、化石が見つかった年代から、ペルム紀の末期まで生きていた可能性が判明した。
それに彼らの所属する原蜻蛉目というグループは、中生代三畳紀まで存続できており、メガネウラもジュラ紀まで生きていた可能性もある。
やはり彼らがこれほどの繁栄が許されたのは、自分たちに見合った環境条件と天敵の有無の部分が大きい。高濃度酸素と、自分たち節足動物以外はまだ小さい生物ばかりで、天敵も少なかったことが大きいだろう。この二つの要素が一つでもあると、生物は巨大化しやすい傾向がみられる。
前述通り、中生代まで実際に生きていたが、そのころには翼竜、ジュラ紀には小型飛行性恐竜の出現しだした時期と一致し、天敵が数多く出てきてしまい対抗することもできず、捕食者から一転、一方的に狩られる立場になり存続を絶たれたと考えられる。
またある怪獣のモデルでもあり、劇中ではとんでもない大きさで人間すら食べる怪物と表現されているが、実際にはここまでではなかった。しかし怪獣にされてしまうほどの存在感があったことは否めない。
古代の巨大トンボ、メガネウラ。昆虫王国の二大トップの一角であり、怪獣になっても大した違和感はないだろう。