オヴィラプトル、誤解された卵泥棒。しかし・・・
恐竜と鳥類の関係性が近年注目され、様々な「鳥のような恐竜」の発見が相次いでいる、現在の恐竜研究の分野だが、数多の恐竜たちの中で、羽毛恐竜ながらも鳥類とは遠い種なのに、顔に大きなくちばしを持ち、その発見の経緯から「冤罪」を着せられた、見た目も来歴もほかの恐竜と一線を画す、へんてこ恐竜がいる。それが今回の記事の主役「オヴィラプトル」である。
鳥に似てるが、鳥には遠い
名前の意味は「卵泥棒」、白亜紀後期の現在のモンゴルにあたるゴビ砂漠に生息していた肉食恐竜の一種である。体長1mから3mほどの小型恐竜で、その見た目は非常に特徴的である。頭には大きな骨質のトサカがあり、まるでオウムみたいな大きなくちばしが付いており、その口の中には歯が1本も生えていない。
尻尾は短く、その代わりに前足は発達していた。近縁種の恐竜が羽毛を持っていたことから、最近の復元図では羽毛を持った姿で描かれることがほとんどになった。その見た目はくちばしの付いた頭と相まって、まるで飛べない鳥の様でもある。
だが分類でいえば「ヴェロキラプトル」で有名なドロマエオサウルス科の恐竜のグループと比べて、鳥類とは遠い種にあたる。巨大なくちばしは進化の過程で得た一つの特徴に過ぎない。
濡れ衣を着せられた
卵泥棒という意味の、恐竜の中でも一風変わった学名をつけられているが、こう名付けられた経緯は、この恐竜が1923年に史上初となる卵の化石とともに初めて発見された際に、卵が多数置かれた恐竜の巣の上にこの恐竜の化石が覆いかぶさるようにしてのっていたためである。
これを発見した学者がこの恐竜が巣から卵を盗み出そうとしている中で災害にあい、卵ごと埋もれ死亡し、結果化石になってしまった。もしくは巣の主に返り討ちにされたのだろうと推測したためだ。
実際同地域にはほかに草食竜であり、角竜の先祖にあたる「プロトケラトプス」が生息しており、その卵と巣の化石がたくさん発見されていたために、肉食竜のオヴィラプトルが巣を襲っても不思議ではないと思われた。
だがこの卵の化石はほかの恐竜の巣の卵ではなく、オヴィラプトル自身の卵だったのである。卵の上に覆いかぶさっていたのも単に親が卵を抱いていただけだったのである。
つまり彼らは冤罪を着せられた、哀れな恐竜だったのである。
なぜこうなってしまったその原因はというと、まず前述の通り卵のある巣の近くで化石が見つかったこと、彼らの丈夫なくちばしがついた口の中には硬いものをかみ砕くのに適していた、歯上の突起物が2本あり、卵を食べるのにも向いていたというのも、彼らが卵を食べていたという誤解を生む原因になってしまったのである。
卵を食べていたという説にも実は早い段階で異説が生じていた。というのも卵は産卵期といった特定の時期でしか食べることができない限られた食料であり、それだけではとても食いつないでいけない。
一応卵も口にしただろうがそうでないときは主に木の実や小動物、昆虫を食べていたとされ、返り討ちにされた説も敵を排除したのなら邪魔になる死体はそのまま放置しておくわけがなく、どけるなりしたはずなのに巣に覆いかぶさったままになっていたこと。
こういった見解から、徐々に考えが改まっていき、1993年にこの疑念に終止符が打たれることになるのである。
冤罪からの汚名返上
この年に新しくこの恐竜の近縁種の新種が発見され、保存状態のいい卵の化石の中身を調べたところ、そこからはなんとオヴィラプトル類の胚(胎児)が入っていたのである。こうしてオヴィラプトルは卵を盗んでいたのではなく、卵を守っていただけであったと結論付けられ濡れ衣は晴れたのである。
だが1回学名が登録されてしまうと変更ができなくなるので、彼らは今後も「卵泥棒」の名前で恐竜界を通っていくことになる、なんとも運の悪い恐竜である。
それが判明してからは図鑑などの復元図でも卵を抱いている姿が描かれるようになった、それ以前は卵を盗もうとして撃退される文字通りの泥棒の姿が描かれていたが。アニメ等でも卵を盗む悪役描写がかなり多かった。ちなみにこの93年の発見によってオヴィラプトルが卵の化石が見つかった史上初の恐竜という事実を再確認するに至った。
不名誉な名前こそ変わらず、かなり悲劇的な発見の経緯をたどることになったこの恐竜は、それだけ恐竜が多種多様な生き物だったのかを物語っている。