残虐なる海の頂点プレデターX
遥か太古の昔、地球がまだ同じ名前をした別の惑星だった時代、中生代の主役というのは、言うまでもないが恐竜であった。しかし同時代の空には翼竜、そして海には首長竜といった海生爬虫類が生息しており、厳密にいえば中生代は恐竜ではなく爬虫類の天下であった。
プレデターX
今回は2008年に発見された、超大型肉食海生爬虫類が主役である。その新種の名は「プレデターX」、何年か前に同じような題名のB級映画があったが、それを思い起こさせるような名前であるがこれは仮称であって、正式名称ではない。
約1憶5000万年前のジュラ紀後期の、現在の北極圏にあたるスピッツベルゲンのスバールバル諸島付近の、当時は温暖な海洋だった地域に生息し、生態系の頂点に君臨していたとされる。
この名前が正式名称ではないことは素人でも判断できる。名前は2013年に正式に「プリオサウルス・フンケイ」と名付けられた。
海からの捕食者
体長は推定15メートル、体重45トンと考えられている。分類上は、同じく海洋に生息する首の短い首長竜、プリオサウルス類に近縁種の種だとされる。
北極圏で頭骨の断片的な化石が発見され、そこから割り出された頭骨の全長はなんとティラノサウルスの1.5メートルの頭骨の2倍の大きさがあり、約3メートルと明らかな捕食者の証拠であった。
付いていた牙の大きさは約30センチ、ティラノサウルスの咬筋力が、最低で3トン、最大で8トンとされ、凄まじく強力だったが、プレデターXの咬筋力はこれの約4倍、単純に比較すると12トン、最大で約15トンになる計算である。
多少の誤差はあるかもしれないが、これだけの大あごを持っていたのだから、それに見合う咬筋力があったことは否定しようのない事実である。
同時代の地層からは彼らが獲物にしていたとされる、キンメロサウルスという、プレシオサウルスという海洋性爬虫類の近縁腫の化石が発見された。その化石は頭骨を除いて全身の骨が発見されなかったのである。
化石自体がまとまって発見される事例のほうが珍しく、部分的なことに対して違和感は覚えないが、唯一見つかった頭骨の化石や部分的な化石にも、傷跡が大量に残っていたのである。
これは何者かに噛みつかれ、傷を負わされ、全身をバラバラに食いちぎられたものだというのはほぼ確定的である。
実際見つかった頭骨の側面の傷跡の位置と、プレデターXの牙の位置がほぼ一致しており、このことからプレデターXは海中で獲物の下から急浮上するようにして、キンメロサウルスの顔面に噛みつき、致命傷を負わせ、その後強力な顎で、全身を食いちぎり捕食していたとされる。
骨を嚙み砕く顎の力
両者の体格を比較しても、数倍の差があり、文字通り骨も残さず食べられてしまったということなのだろう。四肢は3メートルに及ぶ巨大なヒレが付いており、効率の良い便利な推進装置だった。これで巨体に似合わぬスピードを発揮したらしく、その速度は秒速5メートル。獲物よりもわずかに速い速度であり、不意を突き奇襲に成功すれば捕食は成功したとされる。
しかしヒレを4枚全部使っても2枚だけでも最高速度は変わらなかったらしく、加速の速度しか変わらなかったとされ、そのことから普段はヒレを2枚だけ使いエネルギーの消費を抑え、狩りの際にヒレ4枚でターボ加速して獲物に急接近したとされる。
獲物の方は浅瀬に逃げ込み、巨体の捕食者から避難していたとされるが、潮が満ちるなどすれば浅瀬にも入り込んだと考えられる。しかし動きが制限されることに変わりはなく、外洋付近でしか、成功率の高い狩りはできなったことだろう。
そんな海洋生態系の頂点たる彼らも、南太平洋の火山活動が原因による、環境変化の影響を受け、生存の息の根を止められた。それ以外にも当時の海洋は海洋性のワニや爬虫類、巨大な肉食魚が繁栄しており、現代の海など比較にならないまさに、青い魔境だったのである。
プレデターXはその海の頂点という恐るべき存在であった。