肉食恐竜の密集地、1億年前のサハラ砂漠は歴史上最大の激戦区
この度、サハラ砂漠から発見された、過去100年の化石の大規模なレビュー、いわば報告が出回ったというが、その内容は恐竜時代がいかに規格外であったかを知らしめるものであった。その報告内容を書き込んでいく。
1億年前のサハラ砂漠
報告では「1億年前のサハラ砂漠」及びその周辺地帯は、恐竜が地上を支配していた中生代の中で、最も危険な地域であったと物語っているという。
モロッコとアルジェリアの国境に沿った、サハラ砂漠にある「ケムケム層」がその詳細を語る。
期間は1憶4500万年~6600万年前の白亜紀後期の地層で、この時代の地層、通称「ケムケム層群」はこれまで軟骨魚、硬骨魚、カメ類、翼竜、草食・肉食恐竜、更に植物や生痕といった化石から、中生代のアフリカの生物多様性を調べるには最高の場所と評判である。
数多くの化石が発見され、その多様性、動物の種類を鑑みた結果、学者は「約1億年前の西サハラ砂漠は、地球史上最も過酷なバトルフィールドだったと」コメントを残すほどの危険地帯であったという。
ジョーク交じりに、「もしもタイムスリップができたとして、この時代のこの砂漠に向かえば、すぐに殺されてしまう」とまで言われる程、大型肉食動物の化石がやたらと見つかっていると、評判である。
ケムケム層群は1憶年前の時点では、広大な河川が存在し、多数の水生生物も生息している、生物にとって恵まれた場所であったとされる。
河川部にはシーラカンスや、ハイギョなどの魚類、ワニ類などが多数生息しており、当然それらを捕食する肉食恐竜も多く生息していたという。
豊富な水源は多数の植物を育て、草食恐竜にとって貴重な食料となり、それらを捕食する肉食恐竜を集めるに至り、結果、地域の生存競争は過酷なものであったと考えて不思議はない。
そうしてこの地は、陸・海・空というすべての領域から、余すことなく危険生物が密集する危険地帯と化した。
ティラノサウルス以上か匹敵する大型肉食恐竜、空を飛ぶ6mの肉食性翼竜、陸上性の5m程のワニ類、全長20m越えの大型草食恐竜類など、そのスケールの大きさはまさに規格外であった。
危険恐竜・生物が多すぎる
一地域の生態系では通常、草食動物の数が肉食動物を上回っており、大型肉食動物が支配的な生態系の頂点に位置するのが普通である。
ところがケムケム層群一帯では肉食恐竜のほうが、草食恐竜よりも数多く、実際史上最大級の大型肉食恐竜の化石も3種類発見されている。
例えば、史上最大と謳われた全長17mの肉食恐竜「スピノサウルス」もこの地域の河川部で暮らし、古代魚を捕食し、他の肉食恐竜とエサを奪い合ったとされている。そのスピノサウルスと争い、ティラノ以上に大きかった全長13mの「カルカロドントサウルス」。
当時、繁栄した全長30m近くの巨大草食恐竜「ティタノサウルス類」をメインの獲物として捕食するため、ここまで巨大化したらしい。
中型肉食恐竜の層も厚く、大型種に劣らない怪物も多数存在し、全長8mの「デルタドロメウス」は巨体ながら体格自体は若干スレンダーであり、足も長かったことから「疾走者」という名前が付けられるほどで、俊足を武器に獲物を捕食していたという。
他にも、死肉を専門に漁る生態系の分解者、全長5~6m程の「ルゴプス」という肉食恐竜もおり、歯が小さく弱いことから捕食ではなく、死体が主食のスカベンジャーとして活動したとされる。
しかし、死肉が見つからないときは、自身でも倒せる獲物を選び食べていた可能性は十分にある。河川部には10m以上の超巨大ワニ「サルコスクス」がおり、恐竜を常食し、戦いを繰り広げたことは明らかである。
あらゆる動物がでかすぎる
この様に肉食竜だけでも実に多様だが、捕食される生物も大型生物ばかりで、シーラカンスは現生種の4~5倍、最低限でも5m以上の乗用車並みの大きさを誇ったという。
スピノサウルスが捕食していたという、古代のノコギリザメの一種「オンコプリスティス」も、全長が最大8mに達し、ノコギリ状の鼻先の大きさは2mにも及んだという。
鼻先に付いた歯が一本、スピノサウルスの化石に刺さっており、スピノはこれらを捕食していたという。
だが、逆にいえばこれほどの大型動物が密集して暮らしていけるほどの、豊かな環境がこの地域一帯で育まれていたということであり、これだけの地獄のような場所ができるほどの豊かさがあったのである。
豊か故に危険な場所になってしまうなど非常に皮肉な話だが、中生代のスケールは人間が今思うよりも、遥かにすさまじい世界だったのは間違いない事実なのである。