ティラノを阻み続けた最大の敵シアッツ!
突然だが最近になって謎が解けだしてきた。いきなり何のことかというと、白亜紀の肉食恐竜たちの空白の歴史である。実は白亜紀の恐竜たちの歴史には大きな空白期間が存在しており、ティラノサウルスの進化の経緯もこの空白のせいで遅々として進まなかったほどである。
空白の時代に存在していた
ティラノサウルスが玉座に君臨するまでの最大の障害となりえたとされる、今回の記事の主役たる怪物の名を取った肉食恐竜を紹介していく。
約9800万年前、白亜紀後期の序盤あたり、この時代のアメリカはユタ州のシーダーマウンテン累層という地層からはなぜか恐竜たちの化石が見つからなかったのである。
肉食竜の化石の断片すら見つかるのが稀なほど。時間でいうとアクロカントサウルスが王者だった白亜紀前期からティラノの出現まで、数えて約2500万年ほどの時間あたりだろうか、肉食竜も草食竜も化石は一切見つからず、この期間の間に恐竜たちに何が起こったのか、近年になるまで詳細はほぼわからずデータが大きくかけていた。
かのティラノサウルスも推測だとこの時代に急激な進化を遂げ、巨大化が加速したとされたが、化石が見つからない以上は確かめようもなかった。
シアッツ
だが近年になって、この空白の時代を解き明かす、巨大肉食恐竜の化石がこの地層から発見された、発見された肉食恐竜の名は「シアッツ」、名前の由来はアメリカ先住民達の言葉で、先住民の伝説に登場する人喰いの怪物を意味する「シアッチ」からとられた。
他の記事で書いたアクロカントサウルスと同じ、カルカロドントサウルス類に含まれる肉食恐竜で、アロサウルスの系統の新系統、ネオヴェナトル科に属している。
復元図を見てみるとギガノトサウルスやカルカロドントサウルスに類似した骨格をしていた。頭骨は大きいが幅は狭く、歯は薄く鋭いナイフ状といった感じで、腕も近縁種と同じく指が三本あり、比較的大きい腕で鋭い爪もついていたとされる。
彼らの化石は幼体のものしか見つかっていないのだが、なんと幼体の化石ですら推定体長9メートル、体重4トンに達したとされ、成体に成長すれば体長11メートルに達したとされる、超ヘビー級の巨体を持っていたとされ、今まで北米で発見された肉食竜の中で3番目の大きさともされた。
だが化石が断片的なものなのではっきりとは言い切れないが、幼体でこれなら成体は確かに大きかったはずであり、このことから考えてティラノサウルスが北米大陸の覇権を握るはるか以前からの王者だとされる。彼らの生息していた時代は、なんとティラノサウルスの先祖が北米に進出しだしたころと合致しているのである。
実際シアッツの見つかった地層からは大型犬程の大きさのティラノサウルス類の歯の化石が共に発見されたのである。このことからティラノサウルスの先祖はこのシアッツたちが最大の壁として立ちはだかった結果、長い時間進化を阻まれたのだと推測される。
こういった事例はほかの記事で書いた恐鳥類、哺乳類の進化、大型化と同じ理屈である。天敵たる存在がいたため大きくなれず、天敵がいなくなり枷が外れたために巨大化することができたということである。一説にはシアッツたちは巨大化し、自分たちに対抗できるようになったティラノサウルスたちとの生存争いに敗れ、絶滅に追い込まれたとする学者もいる。
それ以外にもアクロカントサウルスの記事で書いたように、当時の王者だったアロサウルスの近縁種の肉食竜たちが原因不明の絶滅を遂げ、シアッツもその大絶滅に巻き込まれ、最大の障害が自然排除された結果、ティラノサウルスが大型化、台頭し、王座に座ることになったとも考えることができる。
恐竜界の絶対王者たるティラノサウルスを阻み続けた怪物恐竜、シアッツ。彼ら新たなる恐竜の発見がまたしても恐竜のたどってきた知られざる空白の歴史を浮き彫りにし、さらなる発展、躍進を加速させていくことになることだろう。