スミロドン、巨大な双剣を持つ王
今回は恐竜とは違う分野の生物を取り上げてみようと思う。恐竜とは生息していた時代も種類も生物としても違うが、古代生物という観点では恐竜に劣らない人気度を誇る古代世界の王者が存在する。
今を生きるネコ科捕食者の開祖
生物の名前は「スミロドン」。一般的には「サーベルタイガー」の通称で通ることが多いだろう。古代生物というカテゴリーでは恐竜に並ぶ有名な生物なので、同時代を生きたマンモスと同じく商品化の機会に恵まれている。古代生物系のおもちゃや商品では必ずといっていいほどに恐竜たちと合わせて売られている。
彼らは新生代という恐竜絶滅後の時代に出現した。いまから450万年前に現れ、1万年前に絶滅したとされている。生物史からするとつい最近の出来事といってもいいかもしれない。
さらにこの時代は人類がいたとされる時期とも重なっており、彼らが古代人と激しく争いを繰り広げたとされるのは想像に難くない。
しかし強力な捕食者であるスミロドンにむやみに向かって行けるわけもないので、例え遭遇したとしても逃げたほうが得策だっただろう。
姿
彼らは上あごから伸びる長さ24センチにも及ぶ巨大な一対の牙を持っていた。これがサーベルタイガーの名の最大の由来であり、一番の武器だった。
断面図は楕円形で後方がナイフの刃のような構造になっており鋸歯(目に見えづらいギザギザのこと牙の切れ味を高める意味がある)もついており強度も高く非常に実用的な武器だった。見た目からしても骨格の状態でも相当目立つため、まさに剣歯虎の代名詞であり象徴であった。
だがこの巨大な牙は見た目よりも現代のネコ科動物の歯に比べて強度に劣るとされ、獲物の硬い骨に当たると簡単に折れてしまうぐらいの強度しかなかった。こういった理由から見た目だけの無用の長物かというと決してそんなことはない。それは彼らの体の構造からも見て取れる。
サーベルタイガーは前足が後ろ足よりも長く骨も太く頑強にできており、肩甲骨(背中の腕に連なる骨)の大きさを見ても相当な怪力の持ち主だったと言われる。下あごはなんと120度と非常に大きく開くことができ、巨大な牙を打ち込みやすいように進化していた。逆に後ろ足は前足よりも短く、走る速度も遅く現在のネコ科動物のような俊敏さもなかったとされる。
狩りの方法
狩りの方法としては獲物に気づかれぬように密かに近づき、獲物が射程圏内に入ったら一気にとびかかり腕力で抑え込み、牙をのどや気道といった比較的柔らかい部位に打ち込み失血死を狙ったと考えられる。
彼らの生息していた時代には大型草食獣が多く、それらを狩るために力負けしないようパワーに特化した進化を遂げたとされる。場合によっては小型のマンモスにすら手を出した可能性すらあり、大繁栄を誇った。しかし長きにわたる繁栄もついに終わるときが来た、
繁栄から絶滅へ
一万年前になると彼らの獲物だった大型草食獣が環境変化により姿を消していったのである。丁度氷河期も終わりを迎えた時期で寒さ対策に巨大化していた動物たちは環境の急激すぎる変化に適応できずに死んでいったのである。
サーベルタイガーもその煽りをもろに食らうことになってしまう、元々パワーに特化した進化をしていたので大型草食獣がいなくなり、より素早い小型草食獣しかいなくなってもそれらを満足に狩ることもできず、同時期に出現しだしたオオカミなどの連携力やより高い知能を持った新たな捕食者の台頭によって王座から引き摺り下ろされ絶滅したのである。
こういったその時代において、最も有効な進化をとりながらも急激過ぎる変化のせいで追いやられた動物は数多い、しかしサーベルタイガーに限った話ではなく生物全般に言えることなのである、だが環境の変動に踊らされた事実は否定できず悲劇的な末路をたどった王者だったといえる。
詳しい生態なども図鑑で多く語られているとおり、非常にメジャーな古代生物である。
特に巨大な牙を全面に押し出した頭骨のレプリカやフィギュアが多く売られている。部屋のかっこいいオブジェとして置くのもいいかもしれない。
「今よみがえる 氷河期の動物たち」という動画がありサーベルタイガーの詳しい生態はもちろん、氷河期に生きた動物たちの生き様が描かれている古代生物好きの人にはお勧めしたい動画である。
サーベルタイガーことスミロドンは1万年の時を経てなお人間にとって最強の王者であることをあらゆる分野で証明し続けているのかもしれない。