トルヴォサウルスは環境で姿が変わっていたのか?
ジュラ紀の恐竜
今回は別々の地域に生息しており、その生息域の違いからか、同種でありながら特徴に違いが生じた、珍しい肉食恐竜を取り上げる。今回の主人公は「トルヴォサウルス」、名前の意味は「獰猛なトカゲ」、ジュラ紀後期に生息していたとされる大型肉食竜である。
体長は後述の2種とも体長8メートルから10メートル、最大で11メートル。体重3トンから5トンほどである。1971年、北アメリカのコロラド州でとある獣脚類の親指についていたとされる巨大なかぎ爪の化石が発見された。
化石からの考察
その後1972年から本格的な発掘調査が始まり、上腕骨、下腕、数個の胴椎、骨盤、手の部分を発見した、そして1979年に新種恐竜「トルヴォサウルス・タンネリ」として認定された。それ以降1985年には頭骨を含めた部分的な化石が見つかり、コロラド州やユタ州でも化石が発掘されたが、その後遠く離れたヨーロッパ西部のポルトガルでこの恐竜と思われる化石が数種類発見された。
そして2014年に同種の新種だと判明し、「トルヴォサウルス・グルネイ」と命名された。名前の意味は「残虐な爬虫類」である。他にもアメリカ西部のワイオミング州で見つかった、ブロントラプトルとエドマルカも最初は別種だと思われていたが、現在ではトルヴォサウルスと同種だとされる。
化石は部分的で詳細はまだまだ不明な点が多い恐竜だが、腸骨の形状からメガロサウルスの近縁種とされる。前述のこの2種は同種だが生息域の違いからか身体的特徴にも差異があった。2種の違いとしてあげられる最大の特徴は口の大きさとその形状である。
タンネリの上あごの歯の本数は11本だったがそれと違いグルネイは歯の本数が少なかった。彼らの歯は同時代に生息していたど獣脚類よりも太く長かった。体長にも諸説あり、前述のエドマルカらの存在も考慮し、推測するとその体長はティラノに匹敵、あるいはそれ以上に達したとする学者もいる。前足は短いが非常に頑強にできており、冒頭でも書いた通り、手は三本指で親指に鋭く巨大なかぎ爪が付いていた。
この親指含めた三本のかぎ爪が明らかな武器だったことは想像に難くない。
巨体を使った捕食
彼らは頭骨の形が特徴的で口吻部(鼻先)が長く、狭く、平たい特徴的な形状をしていた、頭骨を横から見ると大きな鼻孔(鼻の穴)の上部分にこぶが見られた。彼らが見つかった地層からは多数の獣脚類や、スーパーサウルスなどの竜脚類の化石も見つかっている。
巨体を武器にそれらに挑みかかていったとされ、またその地層は彼らが生きていたころには水辺だった場所が多く、そういった環境を好んで住んでいたとされる。そこからも実際に彼らにかみ砕かれたと思われる。カメやワニ類の化石も発見されており、これらを食料にしていたともされる。
同時期に生息していた同時代の王者たる、アロサウルスとは生態系上の地位が違っていたとされるが、彼らがアロサウルスに襲い掛かていった可能性も否定できない。実際アロサウルスの恥骨の化石にはトルヴォサウルスが噛んだとされる歯形が残った化石も見つかっている。だが恥骨という部位のため、単に死んだアロサウルスの死骸を食べていたときに付けられただけかもしれない。
身体構造上、たいして早く走れなかったとされ、死肉を漁るスカベンジャーと考える学者もいる。だが歯に鋸歯が見られ、切れ味に富んだ形状であることや、短くも頑強で力強い腕とそれに付いた巨大な鉤爪から捕食者としての能力が高かったことは十分に考えられる。彼らの卵と思われる化石も発掘されているが、彼らが子育てをしたかは現状不明である。
生息環境の違い
彼ら2種の生息環境は実際異なっていた。北アメリカの方は西部から盆地に注ぐ川が多く、広い湿地帯が多く、恐竜の種類も豊富で、多数の竜脚類、イグアノドン類、ステゴサウルスなどの剣竜も多く生息していた。ヨーロッパの方は海岸の環境で、海洋の影響を強く受けていたとされ、ここでは頂点捕食者に君臨していたとされる。
こういった生息域の違いで同種でありながら特徴に違いが生じる生物のことを俗に「亜種」とされている。これは非常に大雑把な言い方であることをご容赦いただきたい。
こういった生息環境で細かな違いがみられることも面白い特徴であり、恐竜の多様性を改めて思い知らされる一例である。