オオカミ類は、人間と切っても切り離せない?
犬と人間がかかわってきた歴史を色々と紹介してきたが、その中の犬と人間のかかわりにおいてはオオカミ類と人間の関係は切っても切り離せない関係にある。オオカミは人間にとっては文化的な面でも深いかかわりを持つ。
だがそれはいい意味でも悪い意味でもである。一方でオオカミは人間の偏見の犠牲者とする意見もあり、世界のオオカミたちの歴史や事情を知るにつれて、単にオオカミが悪役ではないことも理解できる。
太古の時代から生息する肉食動物
捕食性哺乳類の中でネコ科動物群と並んで、代表的な肉食動物であり、その進化と誕生の歴史は数万年にも及ぶほどの、太古の時代からこの地球に生息していた。おもに北半球を中心とした広い範囲に生息していた。
哺乳類の中でも高度な社会性を持つ動物であり、一組のつがいがリーダーとなりその子供からなる複数体の群れで生活する。子供はある程度成長すると群れから離れ単独で生活するようになり、これが一匹オオカミの由来である。
一匹オオカミは異性のオオカミとつがいとなり新たな群れをつくるか、ライオンの様に他の群れのボスを倒し乗っ取るかのいずれかで群れをつくる。だが後者の方はリスクが高く、失敗すれば死ぬ場合もあり、一匹オオカミの死亡率の大きな要因にもなっている。
他の群れから攻撃対象になるので、群れの縄張りの外の群れ同士の衝突を避けるための、非干渉地帯ともいうべき、緩衝地帯と呼ばれる場所で行動していることが多く、これらの地帯は安全なだけでなく他のオオカミの群れから逃れてきた草食獣が多く集まるので、たとえ単独個体でも生存率は高くなる。
オオカミの生態
よく遠吠えの描写が知られているがこれはコミュニケーション、群れの連携、救難信号などの際にこういった行動をとる。仲間やほかの群れに自分の存在を認知させるものである。
獲物は大型の牛や、シカやイノシシなど、足の速さは最高で70キロも出せる俊足で、咬筋力は180kgにも達する。
また、特筆すべき点に驚異的なスタミナがあげられる。その気になれば獲物を最高速度なら約20分、30㎞まで、速度を緩めればなんと約7時間以上も追跡でき、一日中追跡できるほどの怪物級の持久力を持つ優れた身体能力の持ち主である。
だが知能が高いゆえか獲物を追跡中にあきらめるといったケースが多く、狩りの成功率は一説には5%以下の報告もあれば、群れになればほぼ100%など環境や群れの規模に大きく左右されるとされる。
また、脳も普通の犬に比べ発達しているとされ、高度な知能も持つ。人間が幼体の頃から接し続ければ、人にも良くなれるとされる、逆に成体になってからだとほぼ懐くことはないとされる。
原始時代には人間の食べ残し目当てにオオカミが人に近づき、その結果遺伝子に変化が起き、人間とオオカミは共生するようになり、結果犬類の誕生につながったとされる。
オオカミのイメージ
オオカミというとやはり悪いイメージが先行する動物であることは否めない。童話の「あかずきん」や「オオカミ少年」、「三匹の子豚」に代表されるように、ずる賢い嫌味で怖い悪役としての側面のほうが強い。シートン動物記でも「狼王ロボ」が知られている。日本では映画化もされた「あらしのよるに」が有名だろうか?
狼男などの怪物もよく知られ、悪役としてのオオカミには枚挙にいとまがない。そして何より家畜を襲う害獣としてよく知られている。牧畜が盛んなヨーロッパ方面では特に嫌われており、駆除が進み大幅に数を減らしてしまった。
日本でも過去にはオオカミが2種類、生息していた。本土にはニホンオオカミ、北海道には亜種たるエゾオオカミがいた。だが彼らは人間との共生に至ることなく絶滅してしまったとされるが、今でもわずかな目撃例があり生存の可能性は捨てきれていない。
一方でその力強さから神格化されることも多く、狩猟民族では狩の名人であることから「神の使い」として畏敬の対象でもあった。オオカミという名も元々は大神(おおかみ)という言葉から変化して付けられたものだと日本では言われている。
ちなみに狛犬のモデルもオオカミだとされている。ある映画会社が製作した魔法のハンマーを使い、最近の映画ではそのハンマーを破壊された雷神ヒーロが出てくる「アベンジャーズ」が代表作のマーベルヒーロ映画「マイティ・ソー」のモデルにもなった、北欧神話でもオオカミは神に比肩される存在、もしくは神そのものとすらされ、「フェンリル」という魔物が登場する。
ちなみに前述の映画の三作目でも劇中にオオカミの魔獣が登場した。牧畜が盛んな土地ではイメージにもある通り、彼らは家畜を襲う害獣として忌み嫌われていた。日本においてもそれは例外ではなく、アメリカでも同じような事例があった。
アメリカのイエローストーン国立公園では家畜への獣害被害が相次いだせいでオオカミを駆除したせいで、獲物であったワピチなどの草食獣が増えすぎて、植物を食いつくし生態系が壊れてしまった。
そこで1995年にオオカミを再導入したところ、ワピチの繁殖が抑制され、植生も再生し、生態系は治っていった。
オオカミがいなくなったせいで増加していたコヨーテも増加が抑制され、多様な動物たちの姿が見られるようになった。北海道でも過去にオオカミの生息域を開拓民が開拓し、獲物であったシカを狩りつくしてしまい、食うに困ったオオカミが家畜を襲いだし、対策に駆除した結果、絶滅に至り結果シカが激増、植物を食い荒らすというイエローストーンと同じ様相を呈してしまった。
北海道でもオオカミの再導入が検討されているが、絶滅から約100年も経ち、自然と人間の境界線がなくなりつつある現在では、人的被害も考慮するとアメリカと同じようにはいかなくなってしまった。
創作でも登場の機会に恵まれ、悪役のモデルやロボットのモチーフにもなっている。人気ソシャゲでも最近のバレンタインイベントで、泣けるイベントを見せてくれたオオカミキャラがいた。というそのキャラが前述の狼王「ロボ」なのだが。
ハイエナと同じく人間の偏見の犠牲者ともいうべきオオカミたち、彼らとの人間の距離は未来では縮まっているのか、それともより離れているのか今後の動向を見守るに越したことはないであろう。